8月21日(月) 歌う事に決めたのは高度1万メートルだった

11月25日は「RADIO LETEPA」レコ発ライブです。
チケットはこちらからお願いします。

1999年。17才。
北国の高校2年生。
5月の最後の日にはハイロウズのバームクーヘンのツアーを札幌ファクトリーホールに見に行った。
周りの人々は進路を決めていたが、自分は何になりたいのか、まだ全く分からなかった。
ハイロウズを見ても、不思議なもので、自分もやりたい、とは1ミリも思わなかった。
ただ、人間じゃない人間もこの世にはいるんだな。カッコイイな。
と、体がちぎれるほど興奮した。

ある日、新篠津村のガールフレンドと地元岩見沢の本屋で待ち合わせをしていたが、待てど暮らせど現れなかった。
ケータイは普及し始めていたが、自分は嫌いで持っていなかった。
田舎の本屋には読みたい本も置いておらず、ただひたすらにボーッと待っていたが、しびれを切らしテキトーに一冊の雑誌を手に取った。
阿部薫特集のBURSTだった。
その日からアルトサックスを吹いてみたいような気がした。

阿部薫のCDは、地元にはもちろん、札幌のタワレコにも売っていなかった。
確か、廃盤になっていて取り寄せも出来なかった。
なので代わりに阿部薫の事を色々な人が書いている本を見つけて読んだ。
その中に友部正人さんの名前もあった。
友部さんの歌はまだ知らなかったが、素敵な文章だと思った。(浅川マキさんの文章もよかった。翌年には札幌でライブも見れた。本当にすごかった。)
友部さんの文章を読んだ後「あれ?この名前見た事あるな。誰だっけ?」と考えたら思い出した。
大好きだったマーシーの「夏のぬけがら」の「地球の一番はげた場所」の人だった。

ようやく手に入れた阿部薫のCDは、想像していたとおり、優しくてキレイな音だった。
音を聞く前に、色んな人の書いた、破滅的に神格化された文章を読んでから聞いた事になるのだが、どれも的外れで、やっぱり俺の睨んだ通り友部さんという人の文章に近い音だった。
その頃CDウォークマンからは阿部薫、チャーリーパーカー、エリックドルフィー、、とサックスの音ばかりが鳴り響いていた。
雪深い北海道の田舎町。
学校にもほとんど行かなくなった進路未定の17才。
死者達のラッパの音はどこまでも続く氷点下の中で唯一の熱だった。
その頃、生きている人間が全員嫌いだったからかも知れない。
遠い死者の音色が何よりも近くて熱かった。
その熱だけを頼りに生きていた時期だった。

自分でもアルトサックスを吹き出した。
とにかく朝も昼も夜も吹き続けた。
目的は無かった。
ただ吹いていないと呼吸が出来ないような感覚だった。
そんなある日、母がCDを買って帰って来た。
栗山町の小林酒造で行われた西岡恭蔵さんの追悼ライブの帰りだった。
そのCDは友部正人の「読みかけの本」だった。
早速ウォークマンで聞いてみた。
自分が今まで聞いてきた歌とは全く違う歌だった。
11曲目の「小さな町で」という歌が流れて来た時、救われたような、未来を提示されたような、希望に満ちた気分になった。
アルバムを全部聞き終わった後、その歌を何回も何回も繰り返して聞いた。
「その時君はまだ18歳 ぼくらは制限速度を置き去りにした」という歌詞が、死ではなく生の方角にアクセルを踏んでいるような気持ちにさせた。
かつて自分のような感覚を持って生きていた人が、今も50才になって生きている。
そんな風に思って救われたのだろう。

その後、修学旅行で東京へ。
東京のCD屋には色んなCDが売っていた。
廃盤になっていたアルバムもたくさん手に入った。
渋谷のタワレコで母へのお土産も何か買ってやろうと思い、友部正人のCDを探してみた。
「CD選書ベストセレクション」というシリーズもののやつが、沢山入っているのに1500円と安価だったのでそれにした。
そして帰りの飛行機。
相変わらずジャズのラッパを爆音で聞いていたが、ふと母へのお土産も聞いてみる事に。
再生ボタンを押す。1曲目は「反復」。
ハーモニカ、ギター、咳払い、そして歌が始まった。
この瞬間、喉に刺さっていたサキソフォンは抜けていた。
俺は歌を歌う事に決めた。

あれから23年。
高度1万メートルで始まった「歌を歌おう」という気分は今も変わらず続いています。

ちょっとドラマチックに書き過ぎたかな?
要するに2023年11月25日「RADIO LETEPA」レコ発ライブは必見ですよ、というお知らせでした。
ご来場ぜひお待ちしております。

PS.その後、初めてライブを見に行ったのはこれ。
札幌時計台。高校3年生の冬でした。
会場の都合?(借りられる時間が決まっていたのでは?)なのか、雪の降る中、外で物販を買った記憶がある。
札幌でCDを買うと帰りの高速バス(札幌-岩見沢)の中で初めて聞く事になる。
岩見沢三井グリーンランドの観覧車が見える頃に大抵のアルバムは終わりを告げる。
友部さんの「ジュークボックスに住む詩人」に載っていた、たま、どんと、チャボ、シオン、シバ、三宅伸治、遠藤ミチロウ、ポーグス、トムウェイツ、ランディーニューマン、、
札幌のCD屋で買っての帰り道、初めて聞くのはいつもこの高速バスの中でした。
書いててとても懐かしい。あのバスの中の冬の感じ。

PS.「読みかけの本」は母のやつをそのまま貰ってきたので、今見たらチケットと新聞の切り抜きが入っていた。

PS.今回の文章の頃の事(アルトサックスが喉に刺さっていた頃の事)をよく表している歌に「雪解け」という歌があります。
8thアルバム「エンデンジャードスピーシーズ」収録曲。
良かったら文章と合わせて聞いてみて下さいね。

「雪解け」

3月の通学路はみずうみで
歩きやすい道を選んでく

サキソフォンをのどに刺してたから
息をしたら音になっただけさ

残雪は黒く汚れてたが
解けた水は春は美しいな

革命は白いミズバショウ
ふるえてる 僕の目の中で

サキソフォンをのどに刺してたから
息をしたら歌になっただけで

僕の心 黒く汚れてたが
解けた水は春は美しいな

「冬の寒い道を歩き丘の上の学校に行く時
僕の息が白く白く舞い上がるのが嫌だったので
僕はアルトサックスを買ってそれをのどの奥に刺した
それから僕の吐く息は全ておかしな音に変わった」

8thアルバム「エンデンジャードスピーシーズ」収録収録
(2021年作詞作曲)