11月25日(月) 川の光の色変わらず、川の名前だけ変わってく

2024年11月21日リリース
僕のレテパシーズ10thアルバム
「夏のアルバム」

1.春雷
2.遠雷
3.T君の夏の歌
4.夏の中で
5.SAPPORO
6.コード泥棒
7.そばにいる
8.まだもう
9.夏のような5月
10.夏のアルバム

録音/ミックス/馬場友美
マスタリング/中村宗一郎
録音場所/Rinky Dink Studio西荻窪,東高円寺ロサンゼルスクラブ
ジャケット写真/2013年初夏、月形小学校のグラウンドにて(撮影/ハダユキコ)

昔からずっと「いつか全曲夏の歌のアルバムを作りたいな」と思っていた。
1989年11月21日にリリースされた「夏のぬけがら」の影響で。
実は6thアルバム「アコースティック」の時にもそんな思惑があり、10曲夏の歌を並べようとしたのだが「春」という歌をどうしても収録したくなって、惜しくも念願叶わなかった。
1st〜6thの頃は、ソロ時代の20年間に作った歌の中から選曲するだけだったので、やろうと思えば全曲夏の歌にするのはたやすかった。
でも7th以降は基本的に新曲のみを10曲並べているから、10曲連続で夏の歌が出来ないと念願は叶わない。
自分は意識的に歌を作れるタイプでは無いので「次も夏の歌が出来ますように!」と祈るしか無い2022年だった。(10thは2022年、11thは2023年、12thは2024年作曲が中心。大体1年に10曲ペースの人間みたい。決して多いタイプでは無い)

なぜそう思ったのかは直感としか言いようが無いが、3曲目の「T君の夏の歌」のT君の歌の中にずっといたら、夏の歌ばかり出来るような気がした。
なので2022年はT君の歌ばかりを聞いていた。
T君は無名歌手な上にライブもしない。(というか精神疾患で出来なかったのかな)
音源も知り合いにしか配らない人だったので、知り合い以外は誰も知らない人。
名前も決して明かして欲しくない人なのでT君とした。
そして俺の直感は当たっていたらしい。
無事に10曲の夏の歌が揃った。

レテパシーズにとって大きな転機のアルバムだと思う。
俺はこのアルバムから足踏みオルガンで作曲するようになり、メンバーに聞かせる為のデモテープを作る時にも、足踏みオルガンやキーボードで演奏する事が多くなった。
ギターの時と違い、自分でも何を弾いているのか理解せずに弾いているので、結果的に謎のコードになっている事が多かったらしい。
なのでアレンジの際のコード解釈の自由度が増えたらしく、変わったコード大好き人間のカニユウヤの目の色が今作以降は明らかに変わった。
今までもアレンジは全員で行っていたが、今作はよりいっそう俺以外のメンバーの才能が発揮されていると思う。

今書いていて思い出したが、そういえばこの足踏みオルガンは、2003年頃にT君に貰った物だった。
そうだ、忘れてた。すげえ繋がってるな。
その頃はオルガンなんて興味も無かったので(そもそも弾けなかったし)全然弾かずに本棚代わりになっていたのだが。
2012年に古宮夏希と離婚した際にオルガンは彼女の再婚先の大槻ヒロノリの家に連れていかれてしまった。
そして2022年に大槻さんから「ひろし、もう金が無いから安いアパートに引っ越すよ。足踏みオルガン引き取ってよ。」と連絡があり舞い戻って来たのだった。
舞い戻ったオルガンに触れてみるとなぜか弾けるようになっていた。
そしてどんどん夏の歌が出来ていった。

少しだけ曲解説。

1.春雷(2022年2月25日作曲)
冒頭のオルガンは「T君の夏の歌」のデモテープのオルガンを抜粋。
雨と雷の音はちゃんと春に録音しておいた。
全曲夏の歌じゃ無いじゃん!1曲目から春の歌じゃん!というクレームが聞こえて来そうだが、この歌は2曲目とセットのイメージなので許して。
ブルーハーツ「手紙」の1番の春と2番の夏を2曲でやったイメージ。

2.遠雷(2022年3月5日作曲)
これもちゃんと夏の遠雷を録音しておいた。
この頃はバイトもしてなかったので、天気予報を見て遠雷の音が録れそうな日は、一日中窓のそばで構えてた。
今はもう懐かしくなってしまった高円寺の古い一軒家のトタン屋根に落ちる雨の音。
「春雷はプロローグ扱いで良い。遠雷のギターソロの前の8拍で曇天の夏空を全員で作り、直後のギターソロで過去と未来の夏全てを表現しよう」なんて壮大な事をアレンジの時から話してた。
どうかな?ちゃんと夏になりました?

3.T君の夏の歌(2022年4月15日作曲)
2004年〜2009年頃まで東京の俺と札幌のT君は手紙と音源で文通していた。
その5年間でT君から送られてきた歌を今数えてみたが、12アルバム全289曲だった。(その間俺が彼に送ったのは7アルバム全70曲)
彼の歌はいつでも平気で聞けるタイプの歌では無いので、あれからもう10年以上聞いていなかった。
2022年、10何年ぶりに彼の歌に向き合いこのアルバムが出来た。
T君に聞かせたいな。
15年ぶりに手紙とこのアルバムを送ってみようかな。

4.夏の中で(2007年作曲)
この歌は古い歌。
今までのアルバムには入れなかったが、今回ついに収録。
当時、川崎市多摩区稲田堤に住んでいたので、多摩川の歌は多い。
「3車線の100の光」の大きな橋は多摩川原橋。
3車線の100の光に死にかけのセミが毎年照らされていた。

ちなみに2007年の同期には「春」「夜明け前」「夕焼けより」「廃墟」「海へ行こうよ」「君しかいない」「バスが来るまで」がいる。
こう見るとなかなか黄金世代だな。
10歳年上の大天才T君に聞かせる為、歌が出来ては張り切って送っていた。
俺の歌を好きな人が全然いなかった頃なので、彼との文通が唯一の励みだった。

5.SAPPORO(2021年夏作曲)
2022年以降は作曲時に日付をメモる事にしたので明記出来るのだが、この曲は2021年作曲なので日付は不明。
だが、調べれば分かると思う。
なぜならこの曲は「2020年開催予定だった東京オリンピックがコロナで2021年に延期になり、しかも暑さ対策でマラソンの会場が札幌になり、それをテレビでぼーっと見ていたら自分の住んでいた北18条駅付近をランナーが走っていて、ランナーの速度で昔を思い出していたらメロディーが浮かんできて、そのままオルガンを弾いてみたら出来た曲」なので。
東京オリンピックの札幌マラソン(確か男子)の日にちを調べれば作曲日が分かる。

噂によるとこの世には「歌詞に重きを置いていないバンド」というのが存在するらしい。
そんなバンドは本来存在するべきじゃないと思う。
なぜなら歌詞を書く、歌う、というのはバンドにとって必須では無いから。
この世にはインストバンドがもっと増えるべきだと思う。
楽器で歌えるのなら、歌詞や歌なんか不要。
9割がインストバンドで歌アリは1割くらいが本当なんじゃないかな。
と昔から思っている。
レテパでもいつかインスト曲をやりたかったから、この曲が出来た時は特に嬉しかった。

ミックスが終わり、10曲を並べてみた時、このアルバムにはまだ何かが足りない気がした。
その時ちょうどアディーが札幌に行っている、と聞いていたので、思い付きで連絡し北18条駅付近の街の音を録音してもらった。
それを「SAPPORO」と「コード泥棒」の間に入れる事によって、このアルバムは完成した。
鼻啜ったり、ライターに火を点けたり、車のドアをバタンと閉めたり、これら全て北18条駅付近で鈴木亜沙美が鳴らした音です。
アディーありがとう。

ちなみに作曲時期的にはこの曲は本来9thアルバム収録の曲。
そして9th収録の「最後のGB戦士」は2022年5月19日作曲とあるので、本来10thアルバム収録の曲。
実は入れ替えて1曲だけズルしちゃった。許して。(GB戦士、そばにいるの次の日に出来たのか、、)

あ、あと2番3番の絶妙なアルトサックスは菊竹南が吹いています。

6.コード泥棒(2022年6月9日作曲)
彼女のバンド「ミチノヒ」が解散したタイミングだったのかな?ちゃんとは覚えていないが「もう歌を歌うのはやめる」と古宮夏希が酔って泣きながら電話してきた。
じゃああの歌のコード貰っちゃおう、と思い彼女と俺と遊佐春菜の3人でやっていた「古宮夏希&コークスが燃えている!」の「きみの星のカオを見送って」という歌のコード進行をパクった。
この歌は彼女の札幌の実家の猫が死にそうだったのに、会いに行けなくて作った歌だったと思う。(コークスの作詞作曲は古宮夏希。この歌もそう。たまに作詞/古宮夏希で作曲/古宮大志のパターンもあったが)
ちなみに歌詞に出てくる「あの友達」というのはT君の妻。(古宮夏希とT君の妻が中学の同級生だった。その縁でT君と知り合えた。今もまだ妻なのかは知らないが)
コード進行が同じとはいえ全然違う歌に聞こえると思うが、後奏は意図的に「きみの星のカオを見送って」と同じ感じにした。(もちろん弾いている事、吹いている事は全然違うけどね)

7.そばにいる(2022年5月18日作曲)
作曲した頃は俺にもまだベイビーはいなかったし、とーちゃんでもかーちゃんでも無かったし、あの人達もゴーストにもエンジェルにも海にも空にも風にもなっていなかったが、歌はちゃんと用意されていた。えらい。
いつでも高らかに鳴り響いているから安心して行進してね。

関口萌はこの歌が特に好きみたいで、今MVを制作してくれている。
俺の誕生日に合わせて公開してくれるとの事。
12月2日をお楽しみに。(谷内六郎、マリアカラス、ドラミちゃん、と同じです)

8.まだもう(2022年6月5日作曲)
この歌は先日解説したので割愛。
詳しくはこちらで。

9.夏のような5月(2022年6月2日作曲)
書いてて気付いたが「夏のような5月(6/2)」「まだもう(6/5)」「コード泥棒(6/9)」とあるので、1週間で3曲出来ている。
昔から歌が出来ない時は平気で何ヶ月も出来ないけれど、一度出来出すとポンポン出来るタイプだった。
そして今思い出したが「コード泥棒」が一番最後に出来たので「あぶねー、大丈夫だよな?ギリ夏の歌だよなこれ。うん、大丈夫。夏って漢字出てくるし。OK!やったー!これで10曲夏の歌だ!」と1人でバンザイしたのだった。

自分としては不遇のバンド人生だと思っているので定期的に「こんなバンド続けているから全て滅茶苦茶になるんだ。早く終わればいいのに」と落ち込む時期がある。
この頃もそんな状態だったので、自暴自棄になり「今一番評判のインディーバンドとやらを見に行ってみよう。そして無事に素晴らしかったらさっさと引退しよう」という気分で、当時の妻のハダユキコとスーパーカブをニケツして横須賀のかぼちゃ屋というライブハウスへ行ってみた。

ゴールデンウィークの2日間の出来事をただ歌っている歌。
時系列はこんな感じ。

①保土ヶ谷バイパスはカブ禁止な上に一度乗ったら降りられない、でも無事に捕まらなかった
②横須賀どぶ板通りのハニービーというバーガーショップ
③かぼちゃ屋
④ライブ後、真っ暗な三浦半島を横切ってマーメイドというラブホへ
窓を開けて寝たら蚊が入り込んだので真夜中に目覚め蚊を退治
白い壁は蚊を発見しやすい
全部退治して、さあ寝よう!と思ったらベッド横のボタンは有線のスイッチだったらしくチャゲアスのヤーヤーヤーが爆音で流れた、、
⑤翌日も快晴、昼ごはんはホテルのそばのまるい食堂
連休で混み合うお店で平和な人々を眺めていたら世界を救ったあの人の事を思い出した
微笑んでいたのだろう、笑われた
ソースカツ丼がおいしかった

10.夏のアルバム(2022年5月21日作曲)
須部都川、幾春別川、豊平川、多摩川、善福寺川。
眺める川の名前は変わるけど、光の色は変わらない。

これはCDの裏ジャケに使った写真。
1989年7月30日、月形町須部都川上流にて。

このアルバムを聞いた人が今までの夏とこれからの夏の両方を思い出せるといいな。

PS.友部正人さんがコメントを寄せてくれました。嬉しい。

PS.↑が表で↓が裏のチラシをヤハタトシキが作ってくれた。
この裏面を眺めながら一日中ウイスキー飲めたら最高だな、なんて久し振りに少し思いました。
なかなか頑張ってるじゃないか、レテパシーズ。

PS.チラシ制作時にジャケット写真の撮影日時を知ったヤハタ君が「あ!この日付だと俺がレテパシーズを札幌のイベントに呼んだ時だ!つながっている!」と喜んでいた。
当時ヤハタ君とは面識が無かったが、札幌のバンドマンだった彼はレテパシーズを札幌のイベントに呼んでくれたのだった。
多分その時に月形にも寄って母校のグラウンドを一周走ってみたのだろう。
こんな写真を撮られていたなんて全然知らなかった。
今回のジャケを考えている時に過去の写真を振り返っていたらいきなり出てきた。
あまりにも今作のジャケにぴったりなのでビックリした。
全て用意されているんだなあ。ちゃんと行進していると。

PS.毎回何かしら大変だけど、今作の制作期間もメンバーみんな色々大変な時期でした。
これからも大変かも知れないけどさ、11th、12thも絶対にこの5人で作ろうね。
絶望も希望もちゃんと引っさげて、ずんずん行進して行きましょう。
俺達は全て連れて行く。そんなエンデンジャードスピーシーズ(絶滅危惧種)です。
無事に絶滅するその日まで!目撃してて下さいね。

それでは10thレコ発ライブで会いましょう。
多分3月?4月?今作戦会議中。
お楽しみに。

PS.「一番高いやつ」のレシート